民事執行法の勉強法とコツ
民事執行法は、どうやって勉強したらよいのだろう?
司法書士試験では「民事執行法」からも出題されます。
この記事では、入門者・初級者向けに民事執行法の位置づけや勉強のコツについて、詳しく解説します。
司法書士試験の民事執行法とは?
民事執行法は午後の部でたった1問しか出題されない科目です。
試験科目 | 出題数 | 配点 |
---|---|---|
民事訴訟法 | 5問 | 15点 |
民事執行法 | 1問 | 3点 |
民事保全法 | 1問 | 3点 |
司法書士法 | 1問 | 3点 |
供託法 | 3問 | 9点 |
不動産登記法 | 16問 | 48点 |
商業登記法 | 8問 | 24点 |
民事執行法は、たった1問しか出題されないにもかかわらず、覚えることや理解することが多く、「コスパ」が悪い科目であることは否めません。
ただ、みんな(合格レベルの受験生)が解答できる出題レベルの場合には落とすわけにはいきません。
本記事で司法書士試験対策上の民事執行法の学習のポイントを確認し、試験対策に役立てください。
民事執行手続きの全体像
ではまず、民事執行手続きの全体像を把握しておきましょう
民事執行手続きの流れ
まず、簡単に民事執行手続きの全体像を確認してみたいと思います。
民事執行手続きの大まかな流れ
- 債務名義を取得する (勝訴判決など)
- 裁判所等への強制執行の申し立て等の手続き (執行文の付与・競売開始決定・債権の差押命令の申し立てなど)
- 執行の手続き (強制競売や転付命令を得るなど)
民事執行は、おおむね、①債務名義の取得→②裁判所等への申し立て→③執行手続きという流れをたどることになります。
細部については具体的な手続きごとに違いがあります。
例えば②については、動産執行という手続きであれば、申立先は「裁判所」ではなく「執行官」となります。また、執行文の付与という手続きが不要なケースもあります(民事執行法第25条但し書き)。
そして、そういった細かい部分が試験では頻出となるわけです。
まずは、①から③という基本的な流れを押さえておくと民事執行法の理解がしやすくなります。以下では、少し、①から③の流れを補足説明させていただきます。
①民事執行には「債務名義」が必要
まず、上記の図の①についてです。
債務名義という言葉は、一般には非常に聞きなれない言葉かと思われますが、強制執行ができる根拠となる文書のことを意味します。債務名義の一覧は、債務名義の一番典型的な例が勝訴判決です。
民事執行は債務名義がなければ開始することができません。(例外が担保権の実行=抵当権などが不動産に設定されている場合となります)。
この債務名義について、過去問で頻出なのが、「公証人が作成する公正証書で債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているものも、不動産の強制執行をする際には執行証書は債務名義にはならない」という知識です。
反対に公証役場で金銭等の支払いについて債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの公正証書は、債務名義になるということもポイントです。
このように強制執行のためには債務名義が必要であり、この点の知識は細かいところまで司法書士試験で出題されます。
②強制執行は必ず申し立て(こちらからのアクション)が必要!
次に、上記の図の②です。
強制執行は自動的に行ってくれるということは決してありません。
この点は、一般の方が誤解しやすいところなのですが、勝訴判決等の債務名義を得れば自動的に執行手続きをしてくれると誤解している方が少なくありません。
しかし、強制執行をするかどうかは、債権者の自由な意思に任されているのです。つまり、強制執行をするためには別途裁判所等への申し立て続きが必要となります。
執行文付与という点が頻出論点
この強制執行の申し立てについて、執行文付与という点が頻出です。
執行文付与とは、ざっくばらんに言えば、「本当に強制執行をして良い」ということの確認を裁判所書記官からもらうための手続きです。
この点が司法書士試験でも頻出であり、とりわけ、執行文をもらわなくても強制執行ができるケースが非常によく出題されます。
執行文を得ずに強制執行ができるケースとは、上でも少し触れましたが、民事執行法第25条但し書きです。
執行文を得なくとも強制執行ができるケース
- 少額訴訟における確定判決
- 仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決
- 支払督促
により、これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行。
「これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行」というのは、民事訴訟の被告に相続等が生じた場合を念頭に置いています。
例えば、AさんがBさんに「40万円を支払え」という少額訴訟の確定判決があった場合、①にあたるので、原則として執行文は不要となりますが、Bさんに相続が生じていて、Cさんが相続人となっている場合には、例外的に承継執行文という執行文を得る必要があります。
「これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行」という文言は、強制執行の際に相続等が生じていないケースならば、執行文が不要ということです。
やや、込み入った説明となってしまいましたが、こういった点が司法書士試験では出題されます。
③執行手続きは不動産執行と債権執行がよく出る
最後に③です。
強制執行の具体的な手続きは、司法書士試験の出題範囲では(1)不動産執行(2)動産執行(3)債権執行の3つの手続きが中心となります。
このうち、動産執行の手続きは司法書士試験ではほとんど出題されていません。出題のメインは、不動産執行の手続きと債権執行の手続きとなります。そのため、この2つの手続きを中心に学ぶこととなります。
司法書士試験用のテキストや過去問を検討されれば、自然と不動産執行と債権執行が学習の中心となります。
独学や法学部の延長で基本書などを利用されて学ばれる方は、過去問を参考に出題範囲をよく絞って学習してくださいね。
学習のコツ
民事執行法は過去問の出題範囲に限って学ぶ!
民事執行法は1問しか出題がない上に、深く学ぼうとすればいくらでも深く学ぶことが可能です。
また、平成30年9月現在、民事執行法の改正も議論されており、改正予定の部分まで視野に入れると、学習にキリがなくなってしまいます。
民事執行法は、過去問を中心としてすでに出題されている分野のみに割り切るという学習姿勢がおすすめです。
具体的には、上述しました債務名義や執行文、不動産執行、債権執行などの過去問で出題されている条文、問題に限りしっかりと押さえて、未出の分野が出た場合には仕方がないと割り切る姿勢で学ばれると良いと思われます。
一例ですが、平成16年の民事執行法改正により導入された少額訴訟債権執行という手続きは、司法書士も代理人となって手続きができます。
そのため、司法書士試験で出題されるのではないかと多くの予備校が予想して、答練(トウレン・司法書士試験の模擬試験のことです)でよく出題されます。
しかし、平成30年までで少額訴訟債権執行は一度も出題された実績がありません。
出題が1問しかないという点を踏まえても、民事執行法は過去問の範囲で学習をおさめておくのが費用対効果の点でおすすめです。要は、民事執行法は深く踏み込まないというのが学習のコツなのです。
過去問から脱却しないという学習スタンスは、同じく出題が1問だけである民事保全法でも同じことが言えます
民事執行法を学ぶと、不動産登記法でも役に立つ!
民事執行法の出題自体は1問だけですが、民事執行法を学ぶことは、不動産登記法の理解に非常に役立ちます。
例えば、不動産登記法の記述で根抵当権が出題される場合、出題パターンとして根抵当権者(多くは銀行です)が差押をして、差押えの登記をしたという事案が非常に良く出題されます。
この場合に、民事執行法で学ぶ手続き(例えば債権届出の手続き)についての理解があるかどうかは、申請する登記に影響するため、記述で合否を左右する点ともなりえます。
民事執行法の問題自体は1題しか出題されないものの、民事執行法は、不動産登記法の理解と得点のために重要であると考えられることで学習のモチベーションが高まりますよ。