民法の勉強法とコツ2(財産法と家族法)

司法書士試験対策・民法の勉強法とコツ(財産法と家族法)

司法書士試験において、民法は最重要科目となります。

 

今回は司法書士試験の民法の理解のポイントを具体的に見ていきたいと思います。膨大な学習量となる民法の勉強の指針として参考になれば幸いです。

 

 

民法・財産法分野の理解のポイント

民法の勉強法とコツ(全般)では、民法は大きく財産法と家族法という2分野に分けることが出来ると説明しました。

 

財産法分野を学ぶ際には、誰の利益かという点を意識して学ばれると理解が進みやすくなります。事例で説明します。

 

財産法理解のための具体例:泥棒への支払いは有効か?

【事例】
泥棒のXは、Aさん宅に空き巣に入って、Aさん名義のB銀行の預金通帳と印鑑と保険証を盗んだ。

 

Xは預金通帳と印鑑と保険証を悪用してB銀行の窓口で通帳の残高5万円を引き出した。後日、AさんはB銀行に対して、「空き巣に入られて私の5万円が引き出されただけなのだから、5万円は私に払い戻させてくれ」と頼んだ。
AさんのB銀行に対する請求は認められるか。

 

この事例では民法第478条を利用して解決します。民法第478条は次のように定めています。

 

第478条(債権の準占有者に対する弁済)
債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

 

債権の準占有者というのは、外見上、権利者に見えるものを意味します。
そのため、この条文の意味をざっくりというと、債権者っぽく見える人に弁済(返済・支払い)をした人は、事情を知らずに過失がなかった場合には、有効となるという意味です。

 

この条文を上の事例に当てはめてみますと、B銀行が預金通帳等を持っていて債権者っぽく見える泥棒のXに5万円の支払いをした際、実はXは泥棒であって本当の債権者ではないということをB銀行が知らなくて、不注意(過失)がなかったときは銀行の支払いは有効になります。

 

一方で、B銀行がXが泥棒であったことを知っていたり、知らなかったことに不注意(過失)があった場合には、B銀行の支払いは無効となり、Aの請求に応じなければなりません。

 

この478条を理解する際のポイントは、外見上権利者と見える人に間違って支払いをしてしまった人の免責の利益VS真の権利者の利益を支払いをした人の主観(気持ち・過失があったかどうかなど)に着目して解決しようとしているものです。

 

このように民法の財産法のルールは、ほとんどの条文が(すべての条文がといっても過言ではないかもしれません)だれかの利益を守るためのバランス調整を定めているというものです。

 

こういった点を意識して学習すると、膨大な財産法の条文の理解がしやすくなるし、また、学習をされていて民法が楽しくなるのではないかと思います。

 

ぜひ、「この条文は誰のどのような利益を守ろうとしているのか」ということを意識されてみてください。きっと財産法の学習効率があがると思います。

 

 

民法・家族法分野の理解のポイント

次に家族法の学習のポイントです。
家族法は、誰の利益かを考えるということに加えて、意思の尊重ということも理解のポイントとなります。

 

家族法における意思の尊重~遺言を例にして

家族法も事例で説明させていただきます。

 

【事例】
80歳となったCさんは、将来の相続のことを考えて遺言書を作成した。Cさんの作成した遺言には「この遺言は最終の遺言であり、撤回するようなことはしない」と書かれていた。

 

しかし、その後、気が変わったCさんは遺言の内容を書き換えたいと思っている。Cさんは、遺言書を撤回して新しい遺言に書き換えることはできるか。

 

この問題の答えは「できる」ということになります。

 

根拠となる条文は民法第1022条です。

 

第1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

 

この条文により、遺言を作成した方は生前はいつでも遺言を撤回したり、内容を変えることが可能です。

 

確かに、遺言に書かれたことをいくらでも覆すことができれば、推定相続人の利益は害されるかもしれません。

 

しかし、遺言は、最終意思として尊重されるべきという点から、遺言はいつでも撤回等が可能と定められています。このことは遺言書に「最終の遺言であり、撤回しない」とあっても変わらないとされます。

 

このように、家族法の分野では利益衡量だけでなく、意思の尊重という視点も理解にとても重要となってきます。

 

家族法における他の重要視点

他にも家族法で意識するべき視点として、子供の福祉という視点も重要です。つまり、子供が健全に成長するための利益は、家族法分野では相当重要視されるのです。

 

この点は、「親子」や「親権」に関する分野を学習する際のポイントです。

 

また、家族法は、画一的な面があり、融通が利かない面があるということも特徴の一つと言えます。

 

例えば、内縁関係の配偶者は、どれほど長年一緒に暮らしていたりしても、相続人となることは認められません。

 

こういった事を認めると、いわゆる相続争いが多発するおそれがあるためです。そのため、家族法は画一的・硬直的な部分もあります。

 

このような画一的部分については、ある程度割り切って何度も繰り返して暗記をするということも必要となってきます。

 

 

その他司法書士試験の民法学習のポイント

その他、司法書士試験の民法学習のポイントを2点ほど述べさせていただきたいと思います。

 

担保物権の重要性:特に根抵当権

司法書士試験の民法では、担保物権の分野、特に、根抵当権の分野が極めて重要です。

 

根抵当権という制度は取引上の必要性(主に企業と銀行の取引の必要性)から昭和46年に法律が整備されたもので、解釈の余地がほとんどない制度になっています。

 

そして、根抵当権は司法試験や行政書士試験など他の法律系国家試験では重要性が極めて低くなっています。

 

これは、銀行取引という限られた場面が主に想定されている上に、解釈の余地が少ないため、一般的な民法の基本書(教科書)でも、ほとんど扱われていません。

 

また、大学の法学部でも取り上げられることはない分野です。しかし、司法書士試験では根抵当権の条文はすべて覚えているくらいが合格者の当然のレベルになります。

 

そのため、予備校を利用される場合には根抵当権はかなりしっかりと説明されますが、独学で学習を進められる方は、(一般的な民法のテキストに加えて)司法書士試験用のテキストなどを併用されて根抵当権分野をしっかりと学習することが必要となります。

 

2020年の試験からは新民法

本記事は2018年9月現在で作成しておりますが、2020年からの司法書士試験では、改正民法での出題がなされる見通しです。

 

民法の改正は、かなり大きなもので、時効制度や瑕疵担保責任などといった、従来の司法書士試験の民法で重視されていた部分にもかなり大きな影響が生じます。

 

これから(2018年9月以降)司法書士試験の学習を始められる方などは、改正民法を意識して学習を進められる必要があります。

 

なお、司法書士試験では法改正があるとその改正部分はすぐに出題される傾向が強いです。

 

例えば会社法ですが、平成28年の出題では平成26年に改正があったばかりの監査等委員会設置会社という制度が記述式で出題されており、改正情報への素早い対応が必要でした。

 

改正情報については予備校の利用がもっとも間違いがありません。改正部分だけでも予備校の講座を利用するなどして、新旧の法律制度を混乱されないように注意しましょう。