商業登記法・記述式の勉強方法とコツ
商業登記法の記述式は、ひな形をしっかりと押さえることと会社法の条文知識をしっかりと体得することが対策の基本となります。
本記事では、比較的初学者の方を念頭に置いて商業登記法の記述式の学習のポイントを述べていきたいと思います。
役員変更登記のマスターは必須!
毎年必ず出題される役員変更登記
商業登記法の記述式試験で毎年必ず出題されるのが役員変更に関する登記です。
役員変更が本試験で出題されなかった年度は、平成の初期にわずかにありましたが、まず役員変更の出題は必出と言って間違いありません。(実務上も商業登記申請でもっとも多いのは役員変更登記です)
逆に言えば、本番では必ずできなくてはなりません。商業登記の記述の学習で役員変更登記のマスターは必須です。
役員変更登記の基本はひな形から
役員変更登記は最終的には、どの時点(何年何月何日)でどの役員が、どのような理由で就任・退任したかを正確に判断して記載しなければなりません。
就任・退任の理由や日付の間違えも一切許されません(実務では責任問題となります)
とはいっても最初から本試験レベルの難しい問題などをやる必要などは当然ありません。
本試験や模擬試験などで出題される難しい役員変更の問題も、ベースは基本的な問題の組み合わせで作られています。
そのため、基本的な問題をしっかりとマスターすることが、最終的に解かなくてはならない複雑な問題を解くための大切な基礎トレーニングとなるのです。
商業登記法の記述式のひな形集・基本問題集
不動産登記の記述式対策でも同じですが、商業登記法の記述式試験対策の基本はやはりひな形集のマスターです。
以下に、主に予備校から出版されている、多くの受験生の支持を得ている自学用のおすすめの商業登記法の記述式のひな形集・基本問題集を紹介します。
こういったひな形集・基本問題集を1冊スラスラと書けるまでマスターすることが大切です。
これらのひな形集の役員変更分野から集中的に取り組むことが、記述式学習の初期にはおすすめです。
また記述の勉強をしていくことで役員変更に関する択一式の問題について具体的なイメージを持つことができ、商業登記法の択一式の点数アップにもつながります。
募集株式の発行関連の登記も重要
司法書士試験の募集株式の発行の出題パターン
役員変更の次に重要となるのが、募集株式の発行に関する登記です。
会社法を学ばれた方は、募集株式の発行は会社の資金調達の方法であるということはご理解されていることかと存じます。
会社は株式を発行して、その株式を買ってもらう(株式の引受人を募集する)ことで資金を調達します。
この募集株式の発行については、司法書士試験の記述では、具体的に何株が発行されて、増えた資本金の額はいくらかということを解答しなければなりません。つまり、試験会場で具体的な計算をしなければならないということです。
計算をするという点は、税理士試験や簿記などを学習している方であればあまり抵抗はないと思います。
しかし、行政書士試験や司法試験など法律系の資格試験の中では、記述式の問題中に計算問題が含まれることがほとんどありません。
行政書士試験や司法試験から、司法書士試験を受験される方は、記述問題中に計算もしなければならないという点を知っておくと、戸惑いが少なくなるかと思います。注意しましょう。
もちろん、計算だけではなく、募集株式の発行手続きが適法かという法律知識も重要となります。
例えば、いわゆる非公開会社であるのに、取締役会の決議で募集株式の発行をしている場合には定款に別段の定めがあるか、第三者割当増資の場合に、株主への通知・公告手続きをしっかり経ているかどうかなどといった点です。
仮に法律の手続き面で違法があれば、それは登記することができない事項(申請をしても却下を免れない事項)と判断して、その旨を文章形式で記載することとなります。
このように司法書士試験の記述では、募集株式の発行について、計算と発行の手続き知識が問われるというのが出題のパターンとなっています。
逆に、訴訟で問題となるような(司法試験や司法試験予備試験などで出題されるような)手続きの瑕疵が募集株式の発行の無効事由となるかといった点を論理的に検討するなどといった問題は、司法書士試験の記述では出題されません。
他資格と並行される方などは知識の使い方違う点を前提として学習することが重要です。
募集株式の発行の判断ミスの連鎖の恐怖(?)
募集株式の発行は、手続きや計算を誤ってしまうと、他の解答箇所も連鎖して間違うという恐ろしさがあります。
例えば、募集株式の発行により、資本金の額が1億円を超えた場合、役員変更の登録免許税が1万円から3万円と変更になります。
すると、増加した資本金の額の計算を誤ることで登録免許税の額を解答する部分(申請にかかる税金の額を答える部分)も必然的に間違えてしまいます。
また、発行した株式数が、いわゆる発行可能株式数を超えてしまう場合には、登記することができない事由となります。
株式数の計算ミスをすると申請すべきでない登記を申請してしまうという間違いをしてしまいます。
このように募集株式の発行は、一箇所でも判断や計算を間違えると連鎖的に間違いを誘発し、驚くほど低い点数となってしまうことがあります。
募集株式の発行は役員変更ほど毎年出題されることはありませんが、出題された時には手続き判断と計算双方で間違うことができないため、やはりひな形集からしっかりと勉強しておくことが重要となってきます。
会社法の知識を活かす
商業登記の記述は会社法の知識を活かす場面
商業登記の記述は、募集株式の発行の計算など、登記申請独特のものもありますが、基本は会社法の知識を活かすということが何より大切です。
例えば、被保佐人Aを取締役に選任する株主総会決議が行われた場合、Aを取締役として就任登記をすることはできません。
これは、会社法第331条第1項が「次に掲げる者は、取締役となることができない・・2号:成年被後見人若しくは:被保佐人・・」と定めているためです。当然ですが、会社法違反があった場合には、登記をすることはできません。
このように会社法で学んだ知識が具体的に活きてくるのが商業登記法の記述です。
逆に言えば、商業登記法の記述は、会社法の知識の定着が極めて重要ということになります。
会社法の知識が特に大事!~機関設計
会社法の知識によって登記申請の適否を判断する問題として頻出なのが、会社の機関設計に関する問題です。
例えば、平成30年の司法書士試験では、会社に監査役会を設置することができるかどうかが問われていました。
監査役会を設置するためには、監査役の半数以上が社外監査役でなければなりません。(会社法第335条第3項)
そのため、問題文の事情から社外監査役の要件を満たしている監査役が半数以上いるかどうかを検討する必要がありました。
もちろん、そのためには社外監査役の定義についてもしっかりと記憶しておいて、1人ずつ社外性の要件を満たしているか判断する必要がありました。(社外監査役の定義は会社法第2条第10号です)。
このように、会社の機関設計が適法かどうかという点は特に会社法の知識が要求されます。
商業登記法・記述式の対策まとめ
最初に書いたように、商業登記法の記述式の対策は
- ひな形をしっかりと押さえること
- 会社法の条文知識をしっかりと体得すること
から始まります。
商業登記法の記述式の対策は、勉強をはじめてから成果が出るまで時間がかかりやすいですが、コツコツと頑張りましょう