民事保全法の勉強法とコツ
民事保全法は、どうやって勉強したらよいのだろう?
司法書士試験では「民事保全法」からも出題されます。
この記事では、入門者・初級者向けに民事保全法の位置づけや勉強のコツについて、詳しく解説します。
司法書士試験の民事保全法とは?
民事保全法は午後の択一で1問の出題となっています。民事保全法は、出題こそ1問ですが、比較的法律の制度が理解しやすく、条文の記憶で得点しやすい科目です。
午後の試験科目 | 出題数 | 配点 |
---|---|---|
民事訴訟法 | 5問 | 15点 |
民事執行法 | 1問 | 3点 |
民事保全法 | 1問 | 3点 |
司法書士法 | 1問 | 3点 |
供託法 | 3問 | 9点 |
不動産登記法 | 16問 | 48点 |
商業登記法 | 8問 | 24点 |
民事保全法は制度のイメージと理解のコツを押さえて、その上で条文中心の学習をコツコツと続け、得意科目にしておきたい科目です。
また、民事保全法は、メイン科目である不動産登記法の処分制限の登記という重要分野とも関連する部分がありますので、不動産登記法の理解のためにも重要となってきます。
民事保全手続きの意味
ではまず、民事保全手続きの意味について
民事保全のイメージ
まず、民事保全手続きの典型例からご説明したいと思います。
例えば、アパートを所有しているAさん(アパートのオーナー・賃貸人)がいて、そのアパートを借りて住んでいるBさん(賃借人)に対して、家賃の滞納を理由として、Bさんに部屋から出て言ってもらうための裁判を起こしたとします。(建物明渡請求事件)
Aが原告、Bが被告となります。
この場合にAさんが勝訴した場合、判決文では「被告は、原告に対して、別紙物件目録の建物を明け渡せ」という判決を得ることができます。
ここでポイントとなるのが「被告=B」は「原告=A」に対して、建物を明け渡せという点です。
仮に裁判中にBがCにアパートの1室を無断で転貸し、Cが住んでいた場合には、Aさんが得た判決ではCをアパートから追い出すことはできません。
あくまでも、判決は、「B」がAに対して建物(アパート)を明け渡せと言っていて、Cに明け渡せとは言っていないためです。(民事訴訟法第115条第1項第1号)
そうすると、せっかく勝訴判決を得ても意味がなくなってしまいます。
そこで、民事保全手続きを利用して、占有移転禁止の仮処分という手続きを、裁判を起こす前にしっかりと行っておけば、Cに対しても(よほどの例外的なケースを除いては)先ほどの勝訴判決を利用することが可能となります。
このように、民事保全手続きとは、ざっくりというと、後に勝訴した場合に強制執行が可能な状態を用意しておくための手続きということになります。
一般的な感覚としては、わかりにくい感じがある手続きかもしれませんが、司法書士として、保全手続きの書面作成を忘れたために勝訴判決が無意味となってしまったとあれば重大な責任問題です(これは弁護士さんも同じです)。
簡裁では代理人となり、地裁以上では書面作成で訴訟に関与していく司法書士として保全手続きの理解は非常に重要となってきます。
保全命令の種類と学習のスタート
民事保全の手続きは、まず最初に、裁判所に申し立てて保全手続きをするという裁判所の判断(保全命令)をもらわなくてはなりません。
保全命令は、大きくはお金の請求権(金銭債権)を保全するための仮差押とお金の請求権以外の権利(非金銭債権)を保全するための仮処分とに分かれます。
保全命令
- 係争物に関する仮処分
- 仮の地位を定める仮処分
民事保全法を学ぶにあたっては、まずは、保全命令から学ぶのが効率的です。
民事保全法の司法書士試験用のテキストでは、民事保全の管轄や保全手続きの際の供託のことなど、やや細かい手続きから書かれているものも少なくありません。
もちろん、管轄のルールなどの点も司法書士試験にはしっかりと出題されるので最終的には大切になります。
しかし、民事保全法では、保全命令からの出題がかなり多い上に、保全命令の申し立てを前提にその後の不服申し立ての手続きや保全執行という他の手続きへとつながっていきます。
そのため、民事保全法は、まずは保全命令の分野から学ぶことをおすすめします。
民事保全法理解のコツと試験対策
次は、民事保全法を理解するためのコツと具体的な試験対策について解説します。
密行性と言い分の機会
民事保全法を理解されるためのコツは、第一に、保全手続きの密行性という点を理解することにあります。
密行性というのは、ざっくばらんに言えば、相手にわからないように秘密に手続きを進めるということです。
例えば、不動産に対する仮差押の手続きが進んでいるということをあらかじめ相手方が知ってしまえば、親族や知人に不動産の名義を移すなどされてしまうおそれがあります。
そのため、保全手続きは、相手にわからないように、いわば、裁判所と申立人とのやりとりだけで秘密で行う必要があります。
このように保全手続きには密行性の要請があります。
一方で、保全手続きをされる方(債務者といいます)としては、ある日突然、裁判所から仮差押命令書という重々しい手紙が届いてしまうことになります。
裁判所が判断するときには、裁判所の中立性・公平を守るため、相手方の言い分もしっかり聞く機会を作るというのが当然の原則です。
さらに、債務者が不服申し立てをした時には、逆に、保全命令を申し立てた方(債権者といいます)に対しても「債務者の不服申し立ては不当だ、保全命令は維持されるべきだ」という言い分のチャンスを与えなければ不公平となります。
そのため、保全手続きでは、不服申し立ての手続きも用意されています。この不服申し立ての手続きも試験では頻出です。
具体的には、保全異議・保全取消しといった制度についてはしっかりと理解しておく必要があります。
このような密行性と言い分確保という視点で民事保全法を学ばれると理解がしやすくなります。
具体的な試験対策:条文中心の学習
一通り民事保全法を理解された後、具体的な試験対策として学習する場合のコツは、民事保全法はとにかく条文を読み込むことが極めて効果的です。
民事保全法の出題はほとんど条文そのままの知識が数多く出題されるためです。
過去問の出題例を見てみます。
出題例1
「仮の地位を定める仮処分命令に対し保全異議の申立てがあった後に、当該仮の地位を定める仮処分命令の申立てを取り下げるには、債務者の同意を得ることを要する」
(平成26年 午後第6問)
誤り。「保全命令の申立てを取り下げるには、保全異議又は保全取消しの申立てがあった後においても、債務者の同意を得ることを要しない。」(民事保全法第18条)
出題例2
「金銭債権を被保全債権とする仮差押命令については、担保を立てさせなければ発することができない」(平成21年 午後第6問)
誤り。「保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。」
(民事保全法第14条)
これらのように、司法書士試験における民事保全法の問題は、条文の知識だけで解ける問題がほとんどです。
ただ、かなり細かい部分まで正確に覚えていなければ間違う出題となっています。そのため、過去問で出題された部分を中心に条文を丹念に読み込んでおくことがとても重要です。
具体的には、司法書士試験の本試験の1,2週間前になったら1日1回程度は条文を読むということなどが効果的です。
民事保全法は条文数が少ないため、試験の直前期になる前にしっかりと勉強をして理解しましょう。過去問演習や答練などを問題演習で慣れておけば、直前期に30分から1時間程度で全条文を読み返すことが十分可能です。
そして、直前期に覚えた条文がそのまま出題されるということも少なくありません。
民事保全法は1問しか出題されませんが、条文の記憶を中心として学習をしておけば、非常に正解しやすい科目ですので、ぜひ確実な得点源にしましょう。